『中国人とアメリカ人 自己主張のビジネス術』
遠藤滋著 文藝春秋(文春新書) 780円+税
評者:丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)
本書は三井物産に42年、香港のハチソンワンポア社に15年勤務し、傘寿を迎えた著者による中国人論、アメリカ人論、そして日本人が両者とどう付き合っていくかを論じたものである。著者によれば中国人とアメリカ人は似ている。どちらもオープンで細かいことにはこだわらない。自己主張が強く、交渉上手である。集団よりも個を大事にする。バランス感覚に優れ、何かに全力をぶつけたりせず、常に2割ぐらいは冷静な自分を保っている。どちらも自分たちが世界の中心だと考えている。
本書では中国人やアメリカ人の目を通してみた日本人像も描かれる。曰く、まじめで勤勉、集団に従う意識が強く、礼儀正しい反面、排他的で融通が利かず、自己表現が下手で、リスク回避的で創造性が弱い。時に一生懸命になりすぎ、まとまって一方向に突っ走ったあげく大きな失敗をする。
以上のような特徴づけは著者の長年にわたるアメリカ人、中国人、日本人との仕事の経験と、友人たちへの取材を通じた印象論にすぎないと言えばその通りである。しかし、評者と著者とでは交際する中国人、アメリカ人の範囲も異なるし、交際の中身も大きく異なるにも関わらず、評者もまったく同じイメージを持っている。内向き志向を強める日本人に対する歯がゆい思いにも共感する。
今後、中国経済がますます拡大するなかで、日本はアメリカと中国という2つの超大国に挟まれる格好となる。著者がいうように、米中両国を知り、その文化への理解を深め、国際感覚を磨いていくことが、日本企業および日本人が生きていく上での必須条件となるであろう。
本書には、アメリカ人、中国人、華人と働いてきた著者の失敗を含めた経験から抽出された様々なアドバイスが盛りこまれているが、何よりも学びたいのは異文化に対する著者の姿勢である。著者は異文化の良いところに学ぼうとしており、文化の差異を楽しんでいる。もともと商業利潤の源泉は価格差なのだから、差異を探し出し、差異のあるところへ飛び込んでいくのが商社員の務めであろう。今世紀に入ってから日本では「モノづくりこそ日本の強み」ということが強調されすぎた。本当は異文化のなかに飛び込んで日本製品を売り込む商業があっての高度成長だったのに、そのことを忘れ、いいモノさえ作っていれば世界が欲しがるはずだという傲慢さから日本は脱し切れていない。高度成長の始まりから今日まで米中で奮闘した著者の商人魂を受け継ぐ若い日本人が増えることを願わずにはいられない。
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