Tuesday, June 23, 2015

書評・瀬口清之『日本人が中国を嫌いになれないこれだけの理由』


『日本人が中国を嫌いになれないこれだけの理由』

瀬口清之著 日経BP社 1800円+税

評者:丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)

 

 2014年の中国の国内総生産(GDP)は日本の2倍以上になることがほぼ確実だ。著者は今後2020年ぐらいまでは都市化とインフラ建設をエンジンとして中国は67%の高度成長を続けることができるとみている。その後は都市化というエンジンが弱まるので成長率は鈍化するものの、2020年代にはアメリカを抜いて世界最大の経済大国になるだろう。

 その中国市場をめがけて世界の企業が攻勢を強めている。日本企業も例外ではない。2014年上半期に日本の対中国直接投資が急減したことが伝えられたが、それは尖閣問題の影響がタイムラグを経て現れたもので、実際には13年秋から投資は回復しているようである。沿海部の都市など3億人が居住する地域では1人あたりGDP1万ドルを超えているが、その水準に達すると質の高い日本企業の製品やサービスを購入できる層が増えるため、日本企業には大きなチャンスがある。逆に2020年までの高度成長期の間に中国で地歩を固めておかないとその後の安定成長期に挽回するのは難しくなるだろう。

 日本企業の中国ビジネスで問題なのは、現地法人の日本人経営者がしばしば本社の方ばかり見ていて、中国人従業員に対してリーダーシップを発揮できないことである。中国の国内販売で成功するには優秀な中国人経営者をトップに据え、現地に権限を委譲して環境の激しい変化に臨機応変に対応できるようにしなければならない。

 本書は、書名こそいささか奇をてらいすぎな感があるものの、内容は至極まっとうな中国経済論、中国ビジネス論である。とりわけ、中国の金融システムの説明や、日本企業の中国ビジネス改善への提言などに日銀行員としての筆者の経験や豊富な現地取材の成果が現れている。

 本書が書店の中国関係書コーナーでひときわ光り輝いて見えるのは、周りが中国の暗部ばかり強調したり、中国は崩壊すると主張する本ばかりだからである。中国経済が破綻するという議論は中国のGDPが日本の8分の1だった20年前から存在した。だが、中国のGDPが日本の2倍になってもそういう議論がやむどころかますます盛んになっている感さえある。それはもう客観的分析というよりも一種の呪詛と理解すべきだろうが、憂慮すべきは、企業の戦略を立てるような人たちまでがそうした議論に影響されてしまっているらしいことである。本書が機縁となって、もう少しバランスの取れた中国観が広まることを筆者とともに私も望む。

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