Friday, July 10, 2015

中国株暴落の構造

  中国の株価(上海総合指数)が6月12日のピークから急落し、7月8日はピークより32%も下落した。中国の新聞によればわずか半月で時価総額にして17兆元(300兆円)が蒸発したという。中国当局(証券監督管理委員会)は慌てており、国有企業や幹部の株売却禁止だとか、「悪意ある空売り」は警察が取り締まるといった、なりふり構わぬPKO(株価維持操作)を行っている。その甲斐あって、7月9日、10日は急上昇しているが、再び急落する恐れもある。
  今回の暴落の背景には、2014年秋以降の株バブルがあったことは明白である。2014年10月には2400ポイント以下だった株価は年末に向けて急騰し、2015年1月には少し落ち着く気配も見せたが、その後さらに上昇して6月12日には5166にもなった。
  バブルが形成された背景として、201411月、153月、5月と3度にわたって中央銀行が基準金利を引き下げ、また2月と4月に準備率を引き下げたことが挙げられる。日本の1980年代後半の時のバブルがそうであったように一般の事業の利益率が下がってきた時に焦って金融緩和を行うと、資金は一般の事業よりも投機に注がれがちであり、投機が投機を呼ぶような状況になる。
   株式市場でのバブルに対して証券監督管理委員会は早くから警戒し、15116日には信用取引(証券会社から資金ないし株を借りて行う株取引)に対する検査を行った。それによって信用取引における現金に対する融資の比率が1:2から1:1.4~1.7に下がった。
 ところが、「場外信用取引」と呼ばれるものが急拡大し、株価は再び上昇を続けた。金融緩和で資金に余裕が出る一方、一般事業ではなかなか有利な融資先を見つけることのできない銀行が株の信用取引の方に資金を流し始めたらしい。銀行はまず信託会社に融資し、信託会社はそれを小分けして信用取引会社に融資、信用取引会社は最終的に数万元、十数万元という単位に小分けして零細な投資家の信用取引に貸した。このように資金を小分けする上で「恒生HOMS系統」というクラウドのシステムが活用された。この「場外信用取引」では現金に対する融資の割合が1:10以上にもなったという。
 証券監督管理委員会は5月頃には株価の異常な上昇の背景に「場外信用取引」があることに気づき、恒生HOMS系統の口座にメスを入れ始め、口座数を37万から19万に整理した。これが株価が6月12日以降急落した原因である。
 このような経緯による株価下落だったので、証券監督管理委員会は当初株価下落は当然のことだと考えていたようだ。ピークから株価が14%落ちた6月26日の段階でも株価の下落は高すぎた株価が市場メカニズムによって調整された結果だと委員会関係者が発言した。
 6月28日には中国人民銀行が政策金利引き下げと準備率の引き下げを発表したがそれでも株価が下落し続けた。さすがに6月29日になって証券監督管理委員会は株価急落に危機感を持ちはじめ、急落への懸念を表明した。ところが翌日にもさらに株価下落が続いたため証券監督管理委員会は場外信用取引への規制を緩めた。71日にはA株取引の料金基準の引き下げ、証券会社の社債発行拡大などを発表した。7月4日以降は証券会社21社に対して上場投資信託(ETF1200億元を購入するよう求めるなどなりふり構わぬ株価維持策をとっている。
 今後株価はどうなるだろうか。2007年後半から2008年にかけてのバブルの形成と崩壊をみると、バブル前の水準まで株価が落ちている。今回のバブルが起きる前は2000-2500ポイントぐらいでしばらく安定していたので最悪の場合、そこまで下がるとみる。
 ただ、中期的には明るい要素もある。それは6月末に年金基金を株で運用できるという政策が発表されたことである。これによって6000億元の資金が株式市場に流入する可能性があるので、これは株価を下支えする材料になろう。またNASDAQやニューヨークに上場していた中国関連株が中国のA株市場に帰還する動きが始まっており、インターネットやサービス関連の優良な企業が入ってくる。
 他方で、場外信用取引に資金を提供した銀行の債権の焦げ付き、信用取引で財産を失った市民の不満などバブル崩壊の傷は今後しばらく中国を苦しめるとみられる。

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